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#天冥名セリフ【Ⅷ ジャイアント・アーク】

f:id:sheep2015:20211130013311p:plain   #天冥名セリフ で募集され、最終巻の帯を飾った「天冥の標」の名セリフたちの解説記事です。今回は「Ⅷ ジャイアント・アーク」からお送りします。ネタバレ全開です。

 

たかで六万歳ばかりの年の端が、などてしたり顔に言いなすか(①p18)

 超銀河団レベルの議論ストリーム「岸無し川(ブリッジレス)」で交わされる会話の一コマ。議論の内容は、ここでは「昏睡の沼」と呼ばれているオムニフロラについて。オムニフロラの拡散がとんでもないスケールで起こっていることを、改めて実感させられるセリフ。

 

 このセリフを言ったのは「Ⅹ 青葉よ、豊かなれ」で登場する柑類の茜華根禍(アカネカ)女王、「六万歳ばかりの年の端」と呼ばれたのは後に登場するエンルエンラ族だと思われる。

 

 

ミヒルは間違ってる、でもミヒルを殺したいなんて思わない。それだけなんだよ、なんでわかる人がいないの…?(イサリ、①p53)

 ハニカムで人工冬眠から突然目覚めさせられたイサリは、ミヒルによって飼い殺しにされる。「女帝ミヒルを裏切った無能な姉」という烙印を押され、かつての同胞から避けられるイサリに、ただ一人シトーと名乗る侍者が話しかける。

 

 イサリのこのセリフを聞いたシトーは、セレスの地下に生き残った人類がいるかもしれないことを告げるのだった。

 

 

『あたしらの生活を天井の隅から500年間覗き続けてきた、くそ電子ネズミ野郎?』(イサリ、①p87)

 エフェーミア・シュタンドーレの手引きでハニカムを脱出したイサリは、咀嚼者(フェロシアン)と化した追手と壮絶な戦いを繰り広げながらドロテアが占位するセレス中心虚を通り抜け、メニー・メニー・シープを目指す。シトーを失いただ一人駆け込んだエレベーターの中で、イサリはダダーのノルルスカインと邂逅する。

 

 もともとこのセリフを言ったのは「恋人たち」のスキットル。イサリが硬殻化する前に、シェパード号の展望室でノルルスカインのことをこう説明したのだ。ノルルスカインの名前を聞いてイサリが漏らしたのがこのセリフである。

 

 

そろそろわかってほしい。彼がここで放り出したら、ここで人類は終わってしまうのだと。(イサリ、①p300)

 アクリラたちの反乱は成功した。しかし、救世群を食い止めるために使っていた電力を植民地に回したことで前線は崩壊、ついに救世群がメニー・メニー・シープに現れる。「大閉日(ビッグ・クロージング)」の幕が開けた。

 

 雄閣の底の船着き場で、カドムはミヒルに腹を貫かれる。第1巻のラストシーンだ。瀕死の重傷を負いながらも、イサリに仲間の元へ戻るように言うカドムに対して、イサリが心の中で言ったセリフがこれ。

 

 

戻るのよ!イサリ!人間たちなど見殺しにして!(ミヒル、①p300)

 前のセリフと前後するが、カドムに致命傷を負わせたミヒルが言ったセリフ。「Ⅰ メニー・メニー・シープ」の時の「cambak! kil human!」というセリフはイサリにはこう聞こえていたわけだ。

 

 

心配するな、もう君には何の義務もないんだ。君の仕事は終わった。もう君のせいで人が死ぬこともない—(カドム、②p162)

 カドムはイサリやラゴス、ユレイン三世と共に植民地の上にあるというセレス・シティへの旅に出る。天蓋盤の上で野営する一夜、カドムがユレイン三世にかけたセリフ。

 

 思えば、サンドラが作り出した偽のメニー・メニー・シープ建国神話の最大の犠牲者がユレイン三世だった。アクリラに追い詰められ、降伏した時のユレイン三世の叫びからもそのつらい境遇がわかる。

 

敵が来るから、植民地の誰もかなわないものすごいやつらが来るって言うから、頑張ってきたんだ!(中略)嘘をついて、邪魔するやつを叱って、ひ、人を大勢殺して!助けたかったのに殺して!戦ってきたんだ!一人で!一人だけで!」(Ⅰ下巻p317)

 

 当初は「ザ・我儘な暴君」だったユレイン三世の真実が改めてわかるセリフ。植民地が崩壊し建国神話の嘘が暴かれてようやく彼は解放され、再びメニー・メニー・シープを救うために動き出す。

 

 

俺たちはセレスの人間を守るように命令されてるんで。あんた方は正真正銘の人間だ。(ルッツ、p337)

 崩壊したセレス・シティで、カドム一行はアイネイア・セアキの生家にたどり着き、シェパード号の場所を突き止める。しかし、その直後倫理兵器の群れが一行を襲った。

 

 新顔の「正覚(コンシャス)」に苦戦する一行だったが、カドムからの「救助要請」を受けてルッツとアッシュがその実力を発揮する。ナノテクを駆使して作られたボディで倫理兵器を蹂躙しながら、ルッツは悠然とこのセリフを言うのだった。

 

 

やっぱりお前は、ちょっとガタのきたお婆ちゃんだったんだよ、カヨ……(アクリラ、②p342)

 フォートピークの竪坑に落下したアクリラは、アウレーリア家に長年仕えてきたロボットメイド、カヨに助けられる。しかし、カヨはミスチフが遥か昔からアウレーリア家に忍び込ませていたスパイだった。

 

 イエ・ザー。メイ・バイ・MHD、アンド、センド・バイMISCHIEF、探測員のカヨです。

 

 「Ⅷ ジャイアント・アーク」のパート1のラストで、カヨが放ったこのセリフに戦慄した読者の方も多いのではないだろうか。

 

 ドロテアの内部で、カヨはオムニフロラが目指すべき完全な覇権戦略を聞き出すためにアクリラを尋問し、アクリラが精神崩壊するたびに「作り直して」いた。しかし、その過程でアクリラの体を桁外れに強化してしまい、返り討ちに遭う。無残な残骸になったカヨに、アクリラは冒頭のセリフをかけるのだった。

 

 ちなみにカヨがつくったアクリラのコピーたちの内の1体は、「Ⅹ 青葉よ、豊かなれ」の「迎え火作戦」後に高次元存在「水文記者(ツスランペク)」によって「岸無し川」にロードされる。「ジャイアント・アーク」の最初と最後に挿入される断章、「『岸無し川』にて」と「川のほとりの《海の一統》」に登場するのは、そうしてロードされた旧バージョンのアクリラである。

 

 

次回:【Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと 】篇

前回:【 Ⅶ 新世界ハーブC 】篇

 

まとめ:#天冥名セリフ 解説記事総集編